父と息子とハーレーと
「母さん!オレ高校卒業したらバイクの免許とりたいんだけど。」
突然高校生の息子にこんなことを言われました。
「んー大学に無事に合格したらね、ウチは誰も乗ってないのに急にどうして?」
「母さん、オレが小さい頃よくおじいちゃんの話してたじゃん」
「えっ?覚えてたの?」
懐かしい。まだこの子が小学校低学年だったころ、よく寝る前に私の思い出話をしていました。
『あなたのおじいちゃんは背も高くないし、スリムなからだでもなかったけど、
ハーレーにまたがるおじいちゃんの姿は世界一かっこよかったんだよ。』
父がハーレーのサイドカーに乗っていて、よく学校で自慢してた。
「私のお父さんはでっかいバイクに乗ってるんだぞ!」って!
何よりも楽しかったのが、父のサイドカーに乗っていくドライブ。
とびきりの特等席にも乗ったような、大好きなお父さんを独占しているような、
そんな気分で本当に楽しかった。
あのでっかいハーレーに跨る父は、私のヒーローそのもの。
「何か飲むか? どこか喫茶店に寄る?」
「うん!」
無線のマイクから聞こえるその声はいつもいつも温かかった。
いつも父と私とハーレーは一緒でした。
平日は近所のスーパーに夜ご飯を買いに行ったり。
休日は県を超えて山や海、オシャレなカフェにも行ったかな。
森の中を駆けたり、朝日がまぶしい砂浜を駆けたり、時には雨が降ってずぶ濡れになって機嫌を悪くして父を困らせた事もあったけど、ぜーんぶがいい思い出。
絶対に忘れたくない思い出。
「すごいだろ!かっこいいだろ?」が口癖でよくハーレーの自慢話をされたけど、
その時の父の顔は本当にうれしそうでいっつもニコニコだったなー
『ねぇーお母さん、どうしてウチにはおじいちゃんみたいな大きいバイクないの?
お父さんは乗らないの?』
『んーそうねー、じゃっ今度お父さんにお願いしとこうか?幸平もお母さんみたいにお父さんと一緒にバイク乗れたらいいね。』
もうこの話は、次第に子供が大きくなっていくにつれてしなくなりました。
もうかれこれ10年以上は話していなかったっと思います。
息子が「バイクに乗りたい!」って言った時は、驚きよりも何か懐かしい感じさえしました。
「バイクって本当にいいよ。生涯の友もできるみたいだし」
「どういうこと?」
「言ってなかった?」
私の父が亡くなった時の話。
父のツーリング仲間だったハーレーオジサン達がやって来て、
父のサイドカーでツーリングに連れ出してくれました。
「君の親父さんと約束したんだ。『娘を俺のハーレーに乗せてくれ』と」
「親父さんのサイドカーに乗ってくれないか?」
親友だったおじさんが父のバイクを運転して横に私が乗り、
他のツーリング仲間のハーレーなど7、8台くらい連なって走りながら
いつもツーリング中に無線のマイクでくだらない会話していた事、
車庫から出す時は毎回すごく嬉しそうな顔してた事、
病気で歩けなくなった父の車椅子を押すのが辛かった闘病中の事、
色んな事を思い出してずっと涙が止まらず、風景も何も見えなかった。
「弔いツーリングをしてくれたオジサン達の優しさでお母さんは本当に助けられたんだから。」
「わかった。絶対に大学に合格してバイクに乗るよ!」
……
「そして俺の運転が上手くなったら、今度は俺が母さんを一緒にドライブつれてくよ!」
「はいはい。まずは勉強がんばりなさい。」